九方旅行記 1日目 はじめての船中泊(1)
きっかけは山口県にある日本最大級の鍾乳洞「秋芳洞」、これを見たいと思った。そこまで行くのであればと、ついでに下関、小倉、博多も見てまわる予定。調べると、大阪から福岡までフェリーが出ている。大阪南港を19時50分に出航し、翌朝8時30分に北九州新門司港へ入航する便。行きの交通手段が決まった。いちど船中泊をしてみたかった。
移動と宿泊を兼ねたチケットは、名門大洋フェリーの公式サイトから予約した。船の中では専用の小さな客室とシングルベッドが与えられる。料金はクレジットカードで支払い済み。あとは用意した荷物を背負い、出航に間に合うよう港まで移動すればいい。
2016年03月25日(金)
出港当日、公式サイトで小さな注意書きを発見した、「ご乗船の港までは、出港時間の60分前までにお越しください」。少しぐらい遅れても大丈夫だと思うが、間に合う段取りを立てる。南港ポートタウン線のフェリーターミナル駅に18時42分着、そこから歩いて5分で乗り場に着くとして、出港63分前。ギリギリセーフの計算。フェリーターミナル駅までは電車で乗り換え3回。うち2回は乗り換え未経験の駅。金曜夜のラッシュタイム。無駄のない移動が要求される。
駅の案内表示を小まめに確認、不安があれば駅員に尋ね、乗り換えはすべて成功。南港ポートタウン線の車両に乗り込む。あとはフェリーターミナル駅で降りるだけ。ひと息ついて車窓を眺めていると、遠くに天保山の観覧車が見える。大阪を生活圏として10年経つが、南港ポートタウン線に乗ったのは今回が初。そしてここからの5日間、利用する交通機関そのすべてが初めてとなる。目的の駅に降り立つと、次に乗る交通機関「フェリーきたきゅうしゅうⅡ号」がみえた。
乗り場に到着し、窓口で手続きをする。チケットの確認を終え、ブリッジを渡り、乗り込んだ先は船内6Fのエントランスホール。人がたくさんいる。子供連れ、友達同士、ひとり客、学生の団体。客層はさまざま。
船内地図や壁に貼られた案内表示を見る。各フロアの間取り、施設の営業時間、予定をざっくり把握。エントランスの案内係にも、いくつか質問をする。もともと集合住宅が好きで、船が好きで、その2つが合体したのがこのフェリー。客室はもちろん、レストラン、売店、浴場も搭載されている。九州へ行くのは今回が初めて。瀬戸内海を渡り、大阪から福岡へいくだけではあるが、胸は高鳴る。
船内を少しウロウロしたあと、荷物を置くため客室エリアへ向かう。客室はグレード順にスイート、デラックス、ファースト、ツーリスト(相部屋)、エコノミー(大部屋)の5タイプ。予約したのはファーストの、ひとり部屋。個室の中では1番グレードが低い。客室エリアへ移動すると、狭い廊下で区切られて、びっしり部屋が並んでいた。「○○高校△△部」や「◇◇同好会」と札の下がった部屋もある。
ちょっと迷子になりながらも、自室に到着。2.7畳の空間に、作業机とシングルベッド、テレビモニター、洗面台。ベッドの下には救命胴衣が格納されている。壁にかかったモニターを点けると、航行ルートの見下ろしマップが表示された。船の現在位置がリアルタイムで分かるようになっている。チャンネルを変えるとテレビ番組も視られた。
とてもお腹がすいている。夕飯は、船内レストランでバイキングの予定。もうレストランは開いているが、今すぐ行くと食事中に出港のときを迎えてしまう。出港の瞬間は船上デッキで迎えたい。船内の売店でアンパンを1つ買ってきて、自室へ戻り半分だけ食べた。荷物からタートルネックを取り出し、シャツの下に着込む。ジャケットのファスナーを一番上まで閉め、準備完了。船が錨を上げたのか、床が数十秒のあいだ水平を失った。
また船内で少し迷子になるも、なんとかデッキに出られた。寒い、風が強い。
この日の大阪は最高気温12度、最低気温5度。3月も終盤だが"寒の戻り"とかで、週明けまで、この調子らしい。デッキに出たのが19時30分ごろ。出港まで20分。港や街の灯り、出港準備に追われる人の様子をみて過ごす。19時45分ごろ、船から煙が上がる、ブオーッと音が響いた。おっ出るか?出るか?寒い、お腹減った、早く出港して。実際に船が動き出したのは20時を過ぎたころ。ゆっくり動き出して旋回、そのまま港を離れていく。
天保山の観覧車がみえた。南港ポートタウン線の車窓から眺めていたときよりも遠くにある。それでもまだ、岸まで泳いで渡れそうな距離。灯りに囲まれた大阪港がとても狭く感じた。
しばらくデッキの上を堪能したあと、冷え切った体で自室に戻る。時刻は20時20分。とてもお腹がすいた、夕飯にする。
つづく